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東京地方裁判所 平成8年(ワ)10378号 判決 1997年9月26日

原告

株式会社 東邦製材所

右代表者代表取締役

竹内敏夫

原告

竹内多助

右両名訴訟代理人弁護士

岩淵秀道

被告

社団法人日本木材信用協会

右代表者清算人

進藤憲一

右訴訟代理人弁護士

猪原英彦

主文

一  被告は、原告株式会社東邦製材所に対し、二八〇万円及びこれに対する平成八年六月二一日から支払済みまで年六パーセントの割合による金員を支払え。

二  被告は、原告竹内多助に対し、六〇万円及びこれに対する平成八年六月二一日から支払済みまで年六パーセントの割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一  原告らの請求

主文第一、二項と同旨。

第二  当事者の主張

〔請求原因〕

一  原告株式会社東邦製材所(以下「原告会社」という。)は主として木材の売買、製材及び製樽、木材の輸入販売を目的とする株式会社であり、原告竹内多助(以下「原告竹内」という。)は東和木材工業の商号で木材の製材売買等を業とする商人である。

被告は、主として会員が行う国有林産物等の買付けにかかる延納代金、又は、国からの受託による国有林産物の販売にかかる国に納付すべき販売代金に相当する債務の保証を目的とする社団法人である。

二  被告の定款によると、会員は協会の定めるところにより信用保証金を納入しなければならないが、会員が退会した場合には退会した者に対しその納入にかかる信用保証金を払戻しすべきことになっている。

三  原告会社は信用保証金として二八口の二八〇万円を、原告竹内は信用保証金として六口の六〇万円をそれぞれ納入していたが、原告会社は平成七年八月六日、原告竹内は同月二三日、いずれも経営上の都合により退会し、その旨被告に通知した。

四  よって、原告会社はその納入した信用保証金二八〇万円、原告竹内はその納入した信用保証金六〇万円及び右各金員に対する訴状送達日の翌日である平成八年六月二一日から各支払済みまで商事法定利率である年六パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

〔請求原因に対する認否〕

一  請求原因一の事実は認める。

二  請求原因二の事実は認める(ただし、抗弁で主張するように、払戻しをしないことができることにもなっている。)。

三  請求原因三の事実は認める。

〔抗弁〕

一  被告は、国等から林産物を代金延納の方法により買い受ける木材業者のため、保証料の支払を受けて国等に対しその延納代金等及び延納代金の決済のための借入金の債務を保証することを業とする社団法人である。

木材業者が、延納の方法により国等から買い受けた林産物代金及びその決済のための借入金の債務について被告から保証を受けるためには、信用保証金を被告に納入してその会員にならなければならない(定款六条、九条、保証業務規約七条)。

二  原告会社は昭和五八年一〇月四日までに二八〇万円(二八口)を納入して、原告竹内は昭和四九年五月一六日までに六〇万円(六口)を納入して、いずれも被告の会員となった。

原告らは、会員となってから長期にわたって被告の保証を受けてきた実績がある。

三  会員が退会した場合には、納入した信用保証金はその会員に払戻しをするものとされている(定款九条2項)。ただし、被告が定める場合には、その全部又は一部を払戻しをしないことができることについて、保証業務規約八条に定められている。その一場合として「被告が保証債務を完済することができなくなるおそれがあるとき」がある。

被告が保証した会員が債務を弁済できないときには、被告が代位弁済をすることになるが、その主たる弁済の資金は会員から納入された信用保証金である。被告は、設立以来、会員のための保証業務(保証とそれに基づく弁済)を重ねてきた。しかし、近年バブルの崩壊による景気低迷のなかで、経営不振による延納債務の支払が滞ったり、倒産する会員が増加して代位弁済額が増加してきたこと、社会情勢の変化に伴い保証事業が低迷してきたこと(必然的に新たに納入される信用保証金が増加しない。)、低金利のため資産運用収入が減少してきたこと等のため、被告の経営内容が年を経るごとに悪化し、現在では今後発生する代位弁済もままならない状態となっている。この状態は、被告にとって「保証債務を完済することができなくなるおそれがあるとき」に当たる。

そこで、被告は、平成八年四月二四日開催の理事会において、当分の間信用保証金の返還を全面停止する旨決議した。

四  会員は、会員になるとき、被告の定款及び保証業務規約について説明を受け、これを承認している。したがって、会員は、被告の定款及び保証業務規約に拘束される。

〔抗弁に対する認否〕

一  抗弁一の事実は認める。

二  抗弁二の事実は認める。

三  抗弁三の事実のうち、被告が現在「保証債務を完済することができなくなるおそれがあるとき」にあること及び被告が平成八年四月一四日開催の理事会で被告主張のような決議をしたことは不知。

仮に被告が平成八年四月一四日に右のような決議をしたとしても、原告らは被告の右決議以前(原告会社は平成七年八月六日、原告竹内は同月二三日)に退会届を提出しているのであるから、被告の右決議は原告らに対し対抗することはできない。

四  抗弁四の事実は否認する。

理由

一  請求原因について

請求原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二  抗弁について

1  抗弁一、二の事実は当事者間に争いがない。

2  抗弁三、四について

(一)  乙一によれば、被告の定款九条2項に「会員が退会した場合には、その者に対し、前項の規定により納入した信用保証金を払戻しするものとする。ただし、本会の定める場合には、その全部または一部を払戻ししないことができる。」と規定され、保証業務規約八条は次のとおり規定されている。

「1項 定款九条第2項ただし書の規定により信用保証金の払戻しをしない場合は、次に掲げる場合とする。

(1) 会員である期間が五年未満である会員のとき

(2) 本会が当該会員のため契約機関に対して保証しているとき

(3) 本会に対し当該会員が債務を負担しているとき

(4) 第七条の規定により、当該会員の納入した信用保証金を他の会員が承継したとき

(5) 本会が保証債務を完済することができなくなるおそれがあるとき

2項 前項第1号に当該することによって信用保証金の払戻しを受けなかった者については、その者が本会の会員となった日から五年を経過した日以降においてその者の請求があったときは、その者に係る信用保証金の払戻しをするものとする。ただし、本会において前項第5号の規定の事情がある場合はこの限りではない。」

(二)  そして、被告は、被告が現在保証債務を完済することができなくなるおそれがあるときに当たると主張するのであるが、現在の社会経済情勢、特に木材その他の国有林産物等の業界が著しい停滞状況にあることは公知の事実であり、被告がその主張のように信用保証債務を完済することができないおそれのある状態にあることも想像に難くない。

定款九条2項の委任を受けた保証業務規約八条1項の各号についてみると、1号は、2項の規定と照らし併せてみると、結局、据置期間を定めたものであり、合理性がないとはいえない規定であり、2号、3号は、被告が当該会員に対し現在又は将来の反対債権がある場合について定めたものであるから、その反対債権の履行の担保のために、その限りにおいて返還を拒絶すべきことは当然の措置であり、4号は、他の会員が返還請求権を承継したのであるから、これまた返還を拒絶することができることは当然である。したがって、1号は単なる据置期間の定めであり、2号ないし4号は規定がなくとも当然に拒絶することができる定めである。

しかしながら、5号は、被告が「その保証債務を完済することができなくなるおそれがあるとき」には、信用保証金の返還請求権が忽然となくなることを規定するものであって、その合理性を見い出し難い。被告の主張のように、その保証債務の完済ができない資産状態に陥ったときは、もはや破産状態に陥ったのであるから、新たな業務を行うことなく、保証債務の履行を含めて、その全債務の支払を停止して、法的な清算手続に入るべきである。そのような措置を講じないで、個々別々に債務の種類を選択して履行・不履行を決することは、公正妥当な債務の履行を期し難いものといわなければならない。仮に、5号の趣旨が信用保証金の返還債務が保証債務よりも劣位にあり、保証債務が優先的に履行されるべきことを規定している趣旨であるとしても(このような重大な権利義務関係を単なる保証業務規約に不分明な文言で規定しているとはとうてい解されない。しかも、被告の保証業務規約は、右の権利義務に直接の利害関係を有する一方の当事者である国、すなわち農林水産大臣の承認にその効力の発生をかからしめており、とうてい合理的な規定であるとは言い難い。)、信用保証金返還債務が保証債務の保証債務以外の他の債務とは優先劣後の関係はなく、平等配当を受けるべきことになる筋合いである(これを否定する規定は見当たらない。)から、退会会員の信用保証金返還請求権の消滅を一般的に肯定する必然性も合理性もないことは明らかである。

そうであるとすれば、被告が5号の場合に当たるとしてその理事会において信用保証金の返還を当分の間全面停止する決議をしたとしても、原告らの信用保証金返還請求権に何ら消長を及ぼさないものというべきである。

(三)  以上のとおりであるから、原告らの請求はいずれも理由があり、認容されるべきである。

(裁判官 塚原朋一)

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